大阪地方裁判所 平成9年(ワ)1903号 判決 1999年3月04日
原告
竹内芳明
ほか一名
被告
成相純子
ほか一名
主文
一 被告らは、原告竹内芳明に対し、各自金五八七万〇五二八円及びこれに対する平成六年三月三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告竹内芳明のその余の請求及び原告有限会社竹内商店の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告らの負担とし、その三を原告有限会社竹内商店の負担とし、その余を原告竹内芳明の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告らは、原告竹内芳明に対し、各自金一二五七万円及びこれに対する平成六年三月三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、原告有限会社竹内商店に対し、各自金五〇〇万円及びこれに対する平成六年三月三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、訴外成相証運転の普通乗用自動車と原告竹内芳明運転の普通貨物自動車とが衝突して原告竹内芳明が負傷した事故につき、原告竹内芳明及び原告有限会社竹内商店が訴外成相証の相続人である被告らに対し、民法七〇九条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事案である。
一 争いのない事実等(証拠により比較的容易に認められる事実を含む)
1 事故の発生
左記事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
記
日時 平成六年三月二日午前一時二〇分頃
場所 大阪府茨木市奈良町一三番三七号先路上(以下「本件事故現場」という。)
事故車両一 普通乗用自動車(大阪三三ほ四五一九)(以下「被告車両」という。)
右運転者 訴外成相証(以下「訴外成相」という。)
事故車両二 普通貨物自動車(神戸四一せ七二五二)(以下「原告車両」という。)
右運転者 原告竹内芳明(以下「原告竹内」という。)
態様 原告竹内芳明は、原告車両を運転して、本件事故現場の交差点に、北から南に向けて直進進入したところ、訴外成相が被告車両を運転して赤信号を無視して進入してきたため、両車両が衝突した。
2 被告の地位
(一) 訴外成相は、平成六年七月二九日死亡した。
(二) 訴外成相死亡当時、被告成相純子はその妻、被告成相真はその子であった。
3 損害の填補 合計一一三一万〇九八八円
(一) 原告竹内は、本件事故に関し、自賠責保険から、七五万円の支払を受けた。
(二) 原告竹内は、本件事故に関し、被告らから、合計一〇五六万〇九八八円の支払を受けた。
二 争点
1 本件事故の態様
(原告らの主張)
原告竹内は、本件交差点手前で赤信号に従い停止した後、青信号になったので発進したものであり、時速六〇キロメートルも出ていない。仮に時速六〇キロメートルだとしても、制限速度は時速六〇キロメートルであるから、原告竹内は速度違反はしていない。
これに対し、訴外成相は、右折するのであれば、本来右折車線に入路するべきであるのにそれを怠り、訴外成相の車線は右折禁止で、しかも右折車線の信号が赤信号であるにもかかわらず、強引に右折し、本件事故を発生させたものである。しかも、訴外成相は、飲酒運転であったものである。
以上のとおりであるから、本件事故はもっぱら訴外成相の過失によるものであって、原告竹内に過失があるとは到底いえない。
(被告らの主張)
訴外成相は、赤信号で本件交差点に進入しているが、原告竹内は、本件交差点付近を時速六〇キロメートルで走行し、前方左右に対する安全確認をすることなく漫然と走行していたものであり、一〇パーセント以上の過失相殺が認められるべきである。
2 原告竹内の損害額
(原告竹内の主張)
(一) 治療費 三九万九四七〇円
平成七年九月七日から平成八年五月二二日の症状固定日までの未払治療費分
(二) 入院雑費 二九万九〇〇〇円
(三) 通院交通費 六万〇八〇〇円
(四) 付添費用 一五六万〇九八八円
(五) 休業損害 一三五〇万円
平成六年三月から平成八年五月まで、一か月五〇万円の二七か月分
(六) 逸失利益 七七四万〇六〇〇円
原告竹内は、両肩関節、右足関節、右手に機能障害、右大腿等に創瘢痕を残して症状固定した(症状固定時五六歳)。右後遺障害は、総合的にみて後遺障害等級一二級に該当する。原告竹内は、一か月あたり五〇万円の収入があったから、右収入を基礎にし、後遺障害等級一二級の喪失率一四パーセント、五六歳の新ホフマン係数九・二一五により、逸失利益を算出すると、七七四万〇六〇〇円となる。
(七) 入通院慰謝料 三〇〇万円
原告竹内は、本件事故によって中心性肝破裂という死に至る可能性があったほどの重傷になり、さらに右大腿骨骨幹部が複雑骨折、右中足骨を骨折したことも重なって七か月という長期の入院を余儀なくされたものであり、その後の通院二〇か月を考えれば、入通院慰謝料は三〇〇万円を下らない。
(八) 後遺障害慰謝料 二七〇万円
(九) 盆栽の滅失による損害 五〇〇万円
本件事故により盆栽の手入れができなくなり、盆栽三五〇鉢を廃棄処分せざるを得なくなり、その損害額は少なく見積もっても五〇〇万円を下らない。
(一〇) 弁護士費用 二二〇万円
よって、原告竹内は、各被告に対し、相続分二分の一に応じた損害賠償を求めることとし、一二五七万円(右損害合計額の一部である二五一四万円の二分の一)及びこれに対する本件事故日の翌日である平成六年三月三日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(被告らの主張)
争う。
原告竹内の症状固定時期は平成七年九月六日である。それ以降の通院については本件事故と相当因果関係にないから、右以降の治療費及び通院交通費は認められない。
原告竹内の症状固定時期は右のとおりであるから、休業期間は約一八か月にすぎない。しかも、この期間全部について全面的な休業の必要性が認められるべきではない。原告竹内主張の基礎収入についても立証はなされておらず、仮にその立証があるとしても、右収入は役員報酬であるから、労働の対価性を考慮して相当の割合に縮減すべきである。
原告竹内の後遺障害は、自賠責保険上、一四級一〇号であり、本件に限って一二級としての扱いをしなければならない理由はなく、一四級一〇号もしくは非該当とすべきである。逸失利益算定の場面でも、基礎収入は、右に述べたとおり、労働の対価性を考慮して相当の割合に縮減すべきであるし、労働能力喪失率は五パーセント、喪失期間は二年として算定すべきである。
症状固定日が右のとおりであることを前提とすると、入院期間は七か月、通院期間は一一か月であり、原告の症状が神経症状(一四級一〇号)であることを前提にすると、入通院慰謝料として妥当な金額は一六六万円である。
後遺障害慰謝料は八五万円とすべきである。
盆栽の滅失による損害は、全くの特別損害であり、相当因果関係にない。
3 寄与度減額
(被告らの主張)
(一) 素因
原告竹内は、本件事故前から糖尿病や右肩関節周囲炎を患っており、また、腰痛や下肢の神経痛やしびれ等に見舞われたことがあった。右肩関節周囲炎は、本件で問題となっている両肩打撲と傷病部位が一致しており、肩関節の可動域制限に大きな影響を及ぼしている。腰痛や下肢の神経痛・しびれについては下肢痛に影響していると推察される。糖尿病は、他の傷病と合併症を起こしやすいことが一般に知られており、関節炎等に影響を及ぼしている可能性は十分に考えられる。
したがって、原告竹内の素因がその症状に寄与している蓋然性は極めて高く、相当程度の素因減額がなされるべきである。
(二) 別件事故
原告竹内は、平成六年一一月六日に追突事故(以下「別件事故」という。)に遭遇している。別件事故によって原告竹内は右膝に傷害を受けたものであり、右膝痛や右膝関節の可動域制限は別件事故との因果関係は認められるものの、本件事故との間には因果関係は全くない(左膝に関する症状は原告の仮病に起因するものである。)。
(三) まとめ
以上のとおり、素因及び別件事故の関係を併せ考慮し、損害の公平な分担の観点から、少なくとも五割の寄与度減額が認められるべきである。
(原告竹内の主張)
争う。
4 損益相殺
(被告らの主張)
原告竹内は、別件事故の関係で加害者側代理人と示談し、通院費として八八〇〇円、慰謝料として一八万〇四〇〇円の保険金を受領した。原告竹内は、別件事故の関係で通院している日には、必ず本件事故との関係でも通院していることから、通院費の八八〇〇円は本件と完全に重複する。次に慰謝料であるが、入通院に伴う精神的苦痛はもっぱら当該期間の長さによって推し量られるのが実務の取り扱いであるところ、別件事故の関係での入通院期間は本件事故の関係での入通院期間と完全に重複しているから、別件事故の関係での慰謝料一八万〇四〇〇円によって、本件事故の関係での入通院に伴う精神的苦痛も右の限度で慰撫されたとみるべきである。
したがって、右合計額一八万九二〇〇円については、本件との関係で損益相殺されるべきである。
(原告竹内の主張)
争う。
5 原告有限会社竹内商店の損害額
(原告有限会社竹内商店の主張)
原告有限会社竹内商店(以下「原告会社」という。)は、大阪府中央卸売市場における果実仲卸業務を営んでいる。原告竹内は、原告会社の代表取締役で中心的な人物であった。原告会社は、本件交通事故により、原告竹内が稼働できなくなったため、運転資金に多大の支障を来たし、一五〇〇万円の借り入れをせざるを得なくなった。右借り入れのうち少なくとも一〇〇〇万円の出捐は本件事故と相当因果関係にある損害である。
よって、原告会社は、各被告に対し、相続分二分の一に応じた損害賠償を求めることとし、五〇〇万円(右損害額である一〇〇〇万円の二分の一)及びこれに対する本件事故日の翌日である平成六年三月三日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(被告らの主張)
争う。
原告会社の請求する損害はいわゆる営業損害であり、予見可能性のないものであり、被告らに支払義務は発生しない。
第三争点に対する判断(一部争いのない事実を含む)
一 争点1について(本件事故の態様)
前記争いのない事実、証拠(乙二ないし九)及び弁論の全趣旨によれば、訴外成相は、平成六年三月二日午前一時二〇分頃、被告車両を運転し、飲酒の上、右折禁止の車線を通り、しかも右折車線用の信号が赤信号であるにもかかわらず、右折を開始し、本件交差点内で、時速約六〇キロメートルで直進してきた原告車両と衝突する事故を発生させたものであると認められる。
右認定事実によれば、本件事故はもっぱら訴外成相の過失によるものと認められる。被告らは、過失相殺を主張するが、右認定事実から原告竹内の過失を導くことはできないし、他に訴外成相の過失に照らした場合に公平の観点から過失相殺を相当とするような事実を認めるに足りる証拠はない。
二 争点2について(原告竹内の損害額)
1 前提事実
(一) 治療経過等
証拠(甲二ないし四、一五、乙一、一一ないし一三、一四1ないし19、一五、証人岸本正文)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
原告は、本件事故当日である平成六年三月二日、救急車にて千里救命救急センターに搬送され、右大腿骨骨幹部骨折、中心性肝破裂、右足中足骨骨折疑の傷病名で同日入院となり(本件事故とは関係ないが、数年来の糖尿病も認められた。)、同月一一日には、右大腿骨骨折に対し、観血的整復固定術が施行された。右足中足骨骨折疑に対してはギプス固定、中心性肝破裂に対しては保存的に経過観察措置が採られ、経過良好につきリハビリ目的で同月二五日に林病院に転院した。林病院に入院時の傷病名は、右大腿骨骨幹部骨折、中心性肝破裂であったが、後日、入院開始時に遡って右手関節捻挫、右肩打撲、左肩打撲が追加され、同年四月二三日からは右手関節外傷後関節炎についても治療が開始された。林病院では、松葉杖歩行練習や理学療法、湿布治療が継続された。同年五月二四日には、右手首の痛みにつき、安静時はマイナス、運動時はプラスであり、同年八月一二日には右肩痛プラスであった。同年九月三〇日に退院した。退院後も右肩関節痛、右上下肢痛が残存し、筋力増強のため、理学療法を継続した。
同年一一月六日、シートベルトを装着して自動車を運転中、追突事故(前記別件事故)に遭遇し、後頸部痛を訴え、頸部捻挫、胸部・腰部打撲の傷病名が付され、同日、頸椎四方向・胸部正面のX線写真が撮られたが、X線写真上、特に問題はなかった。翌日、右膝痛を訴え、右膝部のX線写真を撮られたが、ほぼOKと診断された。同年一二月一三日、リハビリ中に右足首及び右膝に痛みがあると訴え、同日から右膝・右足関節外傷後関節炎の治療が開始された。同年一二月二七日のX線写真によると、右大腿骨の癒合は八〇パーセント程度であった。平成七年一月中は右膝・右足部疼痛が著明であったが、同月二五日には、X線写真により、これらの部位にOA(変形性関節症)変化があると診断された。同年二月一四日のX線写真によると、右足・右大腿骨の癒合が良好に進んでいることが確認された。同年四月八日には、別件事故による症状は軽減したため、同日をもって治癒と診断された。同年四月一九日、抜釘のため再度入院し、同年五月五日に退院した。退院後も、右大腿部痛及び右上腕中央部以下のしびれ感があり、引き続き理学療法等の保存療法を継続した。林病院の岸本医師は、同年六月二七日には、同年七月下旬に症状固定の予定であったが、主として原告の納得の問題があり、その後も治療を続けることになったが、再び同年九月六日に後遺障害診断を前提にして瘢痕の大きさや関節可動域を詳しく診察した。この時点の関節可動域の状態と後の平成八年五月二二日の時点の関節可動域の状態とを比較すると、ほぼ同じであるかむしろ後者の方が多少悪くなっている。林病院の林医師は、平成七年九月六日に「右股関節、右膝、右足関節の疼痛残存し保存的加療継続するもこれ以上の改善がみられないため平成七年九月六日をもって症状固定とす」と診断した。しかし、林病院の岸本医師は、林医師の症状固定の判断があったものの、原告竹内の症状は自覚症状が中心であり、どの辺りで治療を打ち切るかは患者である原告竹内との相談の下で決める面もあるという観点から、未だ症状固定には至っていないと判断し、治療を継続することにした。原告竹内を主に診察していたのは岸本医師であったが、林医師も診察していた。
岸本医師は、平成九年五月二二日に原告の症状が固定した旨の後遺障害診断書三通を作成した。これらの診断書には、傷病名として、両肩打撲、右手関節捻挫、中心性肝破裂、右大腿骨骨幹部骨折、右足中足骨骨折、右膝、右足関節外傷後関節炎が掲げられ、自覚症状としては、両肩痛、右中指痛、右股関節痛、両膝痛、右足関節痛、両膝の可動域制限があるとされ、他覚症状等として、右手背に腫脹あり、両肩に著明な圧痛あり、筋の硬化のため両肩関節に可動域制限を認める、握力右二八キログラム、左三七キログラム(右効き)、右手関節捻挫後の右手背の腫脹、右手の疼痛のため握力は低下している、右手の機能障害残存、右手指の可動域制限あり(物をつかむ動作に制限あり)、両膝に著明な可動域制限を認め、その原因は、右については大腿骨骨折に伴う筋の硬化、左については右下肢痛のため左下肢への負担増大のための筋の炎症であるとし、創瘢痕として、右大腿外側に〇・五×一〇、〇・五×三、右膝下に四×〇・五、二×〇・五、一×〇・五、五×〇・五、左下腿前面に〇・五×一(九か所)、右下腿後面に三×〇・五(二か所)があるとされ(以上の創瘢痕の大きさの単位はすべて「センチメートル」である。)、X―P上骨折部の骨癒合は良好であり、右下肢痛のため立ち仕事への従事は困難である、症状は固定しており改善の見込みなしとの意見が述べられている。右診断時において、肩関節の可動域(自動)は、屈曲が右一五五度、左一三〇度、伸展が右三五度、左一五度、外転が右一一五度、左九五度、母指IPの可動域(自動)は、屈曲が右四五度、左六五度、伸展が右〇度、左〇度、示指~小指DIPの可動域(自動)は、屈曲が右二五度、左二〇度、伸展が右〇度、左〇度、足関節の可動域(自動)は、背屈が右五度、左一〇度、底屈が右二五度、左三五度であった。
自賠責保険会社は、原告の後遺障害につき、後遺障害等級表一四級一〇号(局部に神経症状を残すもの)に該当すると判断した。その理由の要旨は、右大腿骨(骨幹部)骨折等の受傷後多様な訴えの症状については、観血的整復固定術施行後の症状の経過等より、右下肢の神経症状として把握し一四級一〇号に該当すると判断できるが、両肩・右中指・左膝痛については事故時に受傷機転なく治療経過上等から外傷によるとする診断根拠不詳にて事故に直接起因するものとは捉えがたく、また、両肩、右母指IP、示指~小指DIP、両膝・右足関節部の運動機能低下については当該部に骨折、脱臼等の器質的損傷は認められず、かつ症状の経過等より自賠責上の後遺障害としての評価は困難であるということである。
以上のとおり認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
(二) 後遺障害、症状固定時期
原告竹内は、少なくとも総合的に判断して後遺障害等級一二級に該当すると主張するところ、右認定の後遺障害の内容及び岸本医師が原告竹内の症状は自覚症状が中心であると判断していることもふまえると、右下肢痛につき後遺障害等級表一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当すると判断するのが相当である。両肩関節、右足関節、左膝、右手の機能障害については、本件事故によって生じたことを裏付ける他覚的所見に乏しく、また、右大腿等の創瘢痕はその大きさの外、部位、形状に照らし、いずれも後遺障害等級に該当するものとは認められない。また、右認定の治療経過によれば、症状固定時期は、平成八年五月二二日であると認められる。
被告らは、原告竹内の右膝痛・関節機能制限は別件事故によるものであると主張するが、別件事故の傷病名は頸部捻挫、胸部・腰部打撲である上、岸本医師が右膝の可動域制限の原因につき大腿骨骨折に伴う筋の硬化であると判断していること(前認定事実)、膝を動かす筋肉は大腿骨骨折部の周辺にもあり、大腿骨骨折がある場合に膝の痛みを訴える人が相当な頻度で存在すること(証人岸本正文)にかんがみると、被告らの右主張を容れることはできない。
また、被告らは、右認定よりも早期に症状は固定したと主張するが、症状固定時期の判断には幅があるのであって、本件における症状固定時期の判断にあたっては、主として原告竹内を診察していた岸本医師の最終的な判断を尊重するのが相当である。
2 損害額(損害の填補前)
(一) 治療費 三九万九四七〇円
原告竹内は、治療費として三九万九四七〇円を要したと認められる(甲五1ないし5)。
(二) 入院雑費 二九万九〇〇〇円
原告竹内は、合計二三〇日間入院したから(甲三、乙一一)、右期間の入院雑費として、一日あたり一三〇〇円として合計二九万九〇〇〇円を要したと認められる。
(三) 通院交通費 六万〇八〇〇円
原告竹内は、通院交通費として合計六万〇八〇〇円を要したと認められる(弁論の全趣旨)。
(四) 付添費用 一四一万円
原告竹内は、平成六年三月二日から同年七月二〇日までの一四一日間にわたり職業付添人による付添看護を要したものであり(乙一四1ないし5、弁論の全趣旨)、一日あたり一万円として、合計一四一万円の付添看護費を要したと認められる。
(五) 休業損害 七四四万六五七五円
まず、休業損害算定における基礎収入について判断するに、原告竹内は、本件事故当時、原告有限会社竹内商店の代表取締役として稼動し、月額五五万円の報酬を得ていたものであり、そのうち月額五〇万円(年額六〇〇万円)は労働対価部分に相当するものと認められる(甲六1及び2、弁論の全趣旨)。したがって、基礎収入額は、原告竹内の主張どおり月額五〇万円(年額六〇〇万円)とするのが相当である。
次に、要休業状態について判断するに、原告竹内の症状の推移及び治療状況に照らすと、本件事故当日である平成六年三月二日から同年九月三〇日までの二一三日間及び平成七年四月一九日から同年五月五日までの一七日間(以上合計二三〇日間)は完全に休業を要し、平成六年一〇月一日から平成七年七月一〇日まで(ただし、平成七年四月一九日から同年五月五日までを除く。)の合計二六六日間は平均して六〇パーセント労働能力が低下した状態であり、平成七年七月一一日から症状固定日である平成八年五月二二日までの三一七日間は平均して二〇パーセント労働能力が低下した状態であったと認められる。
以上を前提として、原告竹内の休業損害を算定すると、次の計算式のとおりとなる。
(計算式) 6,000,000×230/365+6,000,000×0.6×266/365+6,000,000×0.2×317/365=7,446,575
(一円未満切捨て)
(六) 逸失利益 七七四万〇六〇〇円
前認定のとおり、原告竹内の後遺障害は、自賠責保険に用いられる後遺障害別等級表一二級に該当し、原告は、右後遺障害によりその労働能力の一四パーセントを症状固定時(五七歳)から稼動可能期間である一二年間にわたり喪失したものと認められる(医師の合理的な裁量の範囲で比較的長期間治療を続けたにもかかわらず前記後遺障害が残存したこと、岸本医師は改善の見込みなしと判断していることにかんがみると、労働能力喪失期間を稼動可能期間よりも短い期間に限定するのは相当ではない。)。
原告の逸失利益算定上の基礎収入(年収)は、前記のとおり六〇〇万円であるところ、新ホフマン式計算法により、年五分の割合による中間利息を控除して、後遺障害による逸失利益を算出すると、次の計算式のとおりとなる。
(計算式) 6,000,000×0.14×9.215=7,740,600
(七) 入通院慰謝料 二四〇万円
本件事故によって原告竹内の被った傷害の程度、治療状況、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、右慰謝料は二四〇万円が相当である。
(八) 後遺障害慰謝料 二三〇万円
原告竹内の後遺障害の内容、程度、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、右慰謝料は、二三〇万円が相当である。
(九) 盆栽の滅失による損害 認められない。
盆栽の滅失による損害額は本件全証拠によってもこれを認定することはできず、また、仮に右損害があるとしてもこれと本件事故との間に相当因果関係があることを認めるに足りる証拠もない。
したがって、いずれの観点からも原告竹内の右主張を採用することはできない。
(一〇) 合計(弁護士費用加算前)
以上の損害合計は、二二〇五万六四四五円となる。
三 争点3について(寄与度減額)
1 素因
被告らは、原告竹内が、本件事故前から糖尿病や右肩関節周囲炎を患っており、また、腰痛や下肢の神経痛やしびれ等に見舞われたことがあったとして、相当程度の素因減額を主張しているが、下肢の神経痛やしびれがあったと認めるに足りる証拠はないし、本件全証拠によっても糖尿病、右肩関節周囲炎、腰痛があることによって素因減額をしなければ公平を失するように治療が長期化したり、あるいは労働能力喪失率が増加したと認めることはできないから、本件において素因減額を行うのは相当ではない。
2 別件事故
被告らは、原告竹内の症状のうち右膝痛や右膝関節の可動域制限は別件事故によるものであるとして、寄与度減額を主張しているが、前認定のとおり、右膝痛や右膝関節の可動域制限は本件事故によるものであり、本件において寄与度減額を行うのは相当ではない。
四 争点4について(損益相殺)
1 通院費
原告竹内は、別件事故の関係で加害者側代理人と示談し、通院費として八八〇〇円を受領したと認められるが(調査嘱託の結果)、別件事故による通院先も本件事故による通院先である林病院であって共通しているから(乙一五)、右受領額のうち四四〇〇円は本件による通院費から控除するのが相当である。
前記損害額二二〇五万六四四五円から通院費四四〇〇円を控除すると、残額は二二〇五万二〇四五円となる。
2 慰謝料
被告らは、原告竹内が別件事故の関係で慰謝料一八万〇四〇〇円を受領しているところ、入通院に伴う精神的苦痛はもっぱら当該期間の長さによって推し量られるのが実務の取り扱いであり、別件事故の関係での入通院期間は本件事故の関係での入通院期間と完全に重複しているとして、本件事故の関係での入通院に伴う精神的苦痛も右の限度で慰撫されたとみるべきであると主張する。しかしながら、別件事故の関係で原告竹内が受領した慰謝料は別件事故によって原告竹内が被った傷害(頸部捻挫、胸部・腰部打撲)に関する慰謝料であり、本件事故による傷害と関係はなく、本件においては、本件事故によって原告竹内の被った傷害の程度、同傷害の治療状況等の事情を考慮して入通院慰謝料を算定しているのであるから、原告竹内が別件事故で受領した慰謝料額の全部ないし一部を本件事故による入通院慰謝料から控除するとか、その算定の際に考慮するというのは相当ではない。
五 原告竹内の損害額(損害の填補後)
(一) 損害の填補
前記のとおり、原告竹内は、本件事故に関し、自賠責保険から七五万円、被告らから一〇五六万〇九八八円の支払を受けているから、前記二二〇五万二〇四五円から右填補額合計一一三一万〇九八八円を控除すると、残額は一〇七四万一〇五七円となる。
(二) 弁護士費用 一〇〇万円
本件事故の態様、本件の審理経過、認容額等に照らし、相手方に負担させるべき原告竹内の弁護士費用は一〇〇万円をもって相当と認める。
(三) まとめ
よって、原告竹内の損害額元本は、一一七四万一〇五七円となる。
六 争点5について(原告会社の損害額)
原告会社は、大阪府中央卸売市場における果実仲卸業務を営んでいたこと、原告竹内は原告会社の代表取締役であったことが認められるが(原告竹内芳明本人、弁論の全趣旨)、他方、原告会社には、原告竹内の外、取締役としてその妻遊子、従業員として西村義和及び竹内宏がいたこと、遊子の報酬は月額三〇万円、西村義和の給料は月額三四万円、竹内宏の給料は月額二六万円であったと認められることに照らすと(甲六1及び2)、原告会社が法人とは名ばかりの存在であるとは直ちに認めがたく、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件事故を原因とする原告会社の損害賠償請求を認めることはできない。
七 結論
以上の次第で、原告竹内の請求は、各被告に対して一一七四万一〇五七円の二分の一である五八七万〇五二八円(一円未満切捨て)及びこれに対する本件事故日の翌日である平成六年三月三日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告会社の請求は失当であるから、主文のとおり判決する。
(裁判官 山口浩司)
別紙図面
交通事故現場見取図